大森林とも言うべきこの樹海に一つの集落がある。

 一番鶏が辺りに朝を知らせた。まだ日は出てないが、かがり火が朝靄を照らし、辺りは清浄な空気に包まれている。

 一人の女が目を覚ました。

 眠い目を手でこすり、ゆっくりと起き上がると、両腕を上に投げ出して大きく背伸びをする。そうして枕元にあるランタンに火を灯し、しんと冷えきった部屋を暖めようと、暖炉に火をくべる。しばらく火に当たって身体を暖めると、毛皮のコートを羽織り、桶を手に持ち外へと出た。

 二、三分ほど歩いていくとカラカラと滑車の音がする。どうやら先客がいたようだ。

「おはよう、おばあちゃん」

「はい、おはよう。今日も早いねえ、感心感心」

 言いつつ老婆はロープを引っ張っていたが、なかなか桶が上がってこない。見かねた女がそれを手伝い、老婆の桶に水を移した。

「いつもすまないねぇ」

「ううん、ついでにおばあちゃんの家まで水を運ぶね」

「ありがとうよ」