黄ばんだブラウスの上に鼠色のストールを羽織り、穿(は)いているスカートの裾は少し破れていて、その姿は見るからにみすぼらしい。

 だが彼女は背中の赤子と手のひらに確かな暖かさを感じていた。そうしていると、彼女の奥底から使命感が沸々と湧いてきて、そのために彼女は誇りに満ちた顔をしている。その立ち居振る舞いは実に凜として晴れがましい。

 平時であれば誰もが羨むような妙齢の女性であろう。けれども寒さと貧しさは彼女にそれを認識させなかった。

 手を引かれて歩いてる子供は緑色の毛糸の帽子を被り、同じ色のマフラー、同じ色のセーターを身につけている。

 いつも着ていたためか、セーターと帽子はところどころで毛糸がほつれ、穴が開いてしまっている。履いている茶色のズボンはヘソのところまであげており、しっかりとサスペンダーで留めてある。

 幼子はつま先に穴が開いた靴を履いていて、歩く度に砂利が靴の中に入っていく。その度に砂利を外に出したい気持ちになったが、母親に遅れまいと我慢して歩いていた。

 髪は母親と同じ銀色で、きれいに切りそろえたおかっぱ頭をしている。耳はようやく産毛から生え代わったばかりで、まだうっすらとしか毛が生えていないが、母親と同じ銀色をしている。