名も無き恋【短編】

「いい天気だな。俺さ、いま大学受験ってやつで息詰まってんだ。久々にこうして外でのんびりするのも大事かもな」



彼は一回う~んと伸びをして、

そっと目を閉じました。


今この時だけでも、

大学受験というものを忘れようとしているようでした。


私も便乗し

目を閉じて、

彼の隣でいろいろ考えました。



あなたといると、ほわ~んとします。


生まれてきてからずっと
重ね続けてきた厚く冷たい心のバリアが、

外側からほぐれていくようです。


本当言うと、

人間は嫌いです。


自分に利益のないものには無関心で、

弱いものを卑下でもしないと自分を上げられない、

醜いやつらだと思っていました。


私も立場が変わればそうかもしれません。


けれど、

あなたは違いました。


私を私として見てくれて、

見返りを求めない真っ直ぐな優しさを持っています。


それは誰にでも出来ることじゃない。


あなただから出来るんだって、

たくさんの通りすがりの人を見てきた私は思います。


そんな素晴らしいあなただから、

私は会いたくなるんだと思います。




隣でそんな風に考えながら、

座っている彼の太ももに手を乗せました。


何だか触れたくなったからです。