名も無き恋【短編】

「昨日高校卒業したんだ。あれだけ授業キライだったのに、さみしいもんだな」



さみしい?



このお花を見たら元気になってくれるかな?



頭の上に豆電球が点いたように



このタイミングだ!



と思い、

ベンチの下に隠してあった白い花をすっと差し出しました。



「え、俺に?くれるの?卒業祝い?」



彼は驚いた様子で目を丸くしていました。



嬉しくない、かなぁ…



私は誰かに何かプレゼントなんてしたことがないので、

恐怖心から目を反らし、

息を呑んで反応を待っていました。


彼は勿体ぶるように
ゆっくり受け取ると、

いつもの笑顔で言いました。



「真っ白できれいだね。ありがとう」



それを聞いた私はほっと胸を撫で下ろし、

空を仰ぎました。



今日は雲ひとつない晴天だったんだ。



花を摘んでからは

贈り物に対する緊張のあまりに余裕がなかったので、

普段なら飽きるほど観察している空の状態にも気付いていませんでした。