夜7時にもなれば喫茶店すずらんの営業は終わる。
今日も満席は変わらずであったのにも関わらず、すずらんはマスター松野一人で切り盛りしているから称賛に値する。
しかし、喫茶店としての営業を終えてもまた別の営業がひっそりとすずらんのカウンター席で行われる。
私は時刻が8時になったのを確認すると冷蔵庫や戸棚から少々のつまみを持ち出し、静かにしかし足早に木造階段を下りる。
すずらんに辿り着くと、うす明るい店内にはマスター松野がカウンターでカップを拭いていた。
どうやら一番乗りらしい。
「今晩は有村さん。今日は一番乗りじゃないですか」
「今晩は松野さん。他の者はまだ来ていないのですか。それとも今日は私一人か...」
「いや、恐らく尾藤くんは来ると思いますけど...。確か彼は今日外出していないはずですから」
またもや優しい笑顔を浮かべ、私に席に座るよう促した。
ちなみに先程出た名前の尾藤くんとは勿論この風鈴荘の住人である。201号室に住んでいる。確か近くの大学に通う学生であったはずだ。
風鈴荘では最年少であるが故に他の住人には弟のように可愛がられている。雑用もまた幾度となく任されているのも事実である。
「あり-?有村ちゃんが一番乗りだなんて珍しいじゃない。どしたの?」
静寂なムードをぶち壊すような陽気すぎる声が店内に響く。
こんな静けさに似合わない喧しいテンションの男をマスター松野はにこにことして対応するから心が広い。
「今日は一段とうるさいな。わからないのか、お前のその奇天烈なテンションがこの空間を壊しているのが」
私が憤慨しているにも関わらず満面の笑みで「嬉しそうだなぁ」などと返してくるからこの男は変人である。
「有村ちゃん新作できた?俺この間有村ちゃんの本読んだぜ。マジ感心したなんてもんじゃないくらい衝撃受けた」
「お前字が読めたのか。しかも文章を理解するなんて大した進化じゃないか」
渾身の皮肉をぶつけたつもりがこの男にはどういうわけか喜びに変わったようで、「馬鹿らしいぜ、全く」といって爆笑している。
私は何だか余計に気分を害してしまい、いつの間にかマスターが出していてくれた珈琲を口にした。
今日も満席は変わらずであったのにも関わらず、すずらんはマスター松野一人で切り盛りしているから称賛に値する。
しかし、喫茶店としての営業を終えてもまた別の営業がひっそりとすずらんのカウンター席で行われる。
私は時刻が8時になったのを確認すると冷蔵庫や戸棚から少々のつまみを持ち出し、静かにしかし足早に木造階段を下りる。
すずらんに辿り着くと、うす明るい店内にはマスター松野がカウンターでカップを拭いていた。
どうやら一番乗りらしい。
「今晩は有村さん。今日は一番乗りじゃないですか」
「今晩は松野さん。他の者はまだ来ていないのですか。それとも今日は私一人か...」
「いや、恐らく尾藤くんは来ると思いますけど...。確か彼は今日外出していないはずですから」
またもや優しい笑顔を浮かべ、私に席に座るよう促した。
ちなみに先程出た名前の尾藤くんとは勿論この風鈴荘の住人である。201号室に住んでいる。確か近くの大学に通う学生であったはずだ。
風鈴荘では最年少であるが故に他の住人には弟のように可愛がられている。雑用もまた幾度となく任されているのも事実である。
「あり-?有村ちゃんが一番乗りだなんて珍しいじゃない。どしたの?」
静寂なムードをぶち壊すような陽気すぎる声が店内に響く。
こんな静けさに似合わない喧しいテンションの男をマスター松野はにこにことして対応するから心が広い。
「今日は一段とうるさいな。わからないのか、お前のその奇天烈なテンションがこの空間を壊しているのが」
私が憤慨しているにも関わらず満面の笑みで「嬉しそうだなぁ」などと返してくるからこの男は変人である。
「有村ちゃん新作できた?俺この間有村ちゃんの本読んだぜ。マジ感心したなんてもんじゃないくらい衝撃受けた」
「お前字が読めたのか。しかも文章を理解するなんて大した進化じゃないか」
渾身の皮肉をぶつけたつもりがこの男にはどういうわけか喜びに変わったようで、「馬鹿らしいぜ、全く」といって爆笑している。
私は何だか余計に気分を害してしまい、いつの間にかマスターが出していてくれた珈琲を口にした。
