橋本くんから聞いた思い。揺るがず、募る相手への想い


聞いたからにはちゃんと言わなければいけない

しっかりと伝えなければいけない

それが頼まれた事だから



「はぁ、」


家までの道のりの足取りが重い。例え母さんに大量の買い物を頼まれてもこんなに進みが遅くはならない

だからと言ってやめるわけにはいかない


「ただいま」

玄関に座り込み、靴を脱ぐ。いつもは脱ぎにくいはずが、今日に限ってスッと足元に落ちた。幸か不幸か、まるでこの後を予感するように感じてしまった


「あら健一、お帰り」

少しだけ覚悟しながら入ったリビング。ソファーにもダイニングテーブルにも見当たらなかった

「ただいま…さくらはいる?出掛けてる?」

台所で料理していた母さんは持っていた菜箸で上を指す

「部屋にいるわよ。最近夜遊びもしないし、一日家にいるわね。遊んでばっかりも困るけど、せっかくの休みなのにね」

苦笑いしながら夕飯はもう少し待ってねと言われて頷き、リビングを出る

2階への階段を上りきると見えたピンクのプレート

ゆっくり近づいてドアの前に立ち、深く息を吸って、右手で作った拳を掲げた


腹一杯に溜まり、吐き出すのに合わせてノックする


間もなく開いたドアからひょっこり顔を出すさくらは訪問者が俺だと気づいて少し驚く

「なに?」

「ちょっと、いいかな」

すぐ済むからと言い、用件に薄々気づいたのか、中に招き入れてくれた

閉まるドアにプレートが揺れて、乾いた音を立てた


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