深々と頭を下げて訴えると店長は奇妙な物でも見るような声で呼んだ
「…桑井?」
「お願いします。辞めさせないでください、お願いします」
顔を上げるように促されても、無我夢中でバカの一つ覚えみたいに「お願いします」と繰り返した
自分でも何でこんなことをしているのか、わからない。でも、止めたいと思えなかった
「どうして橋本を辞めさせたくないんだ?」
頭上から降ってくるため息混じりの問い掛けに顔を上げる
「彼といて大変だったろう。仕事はすぐ覚えても態度があまりにひどい。そこを正すのは至難の技だった、そうだろ?」
「…大変でした。でも、そうでないこともあって、良いところもあってお客様にも褒めてもらいました。店長だって、橋本くんが変わったって言ってくれたじゃないですか」
「あぁ、そうだったな。だが、どんな事情があれ度重なる無断欠勤は許されない。なのに何でそこまであいつにこだわる?」
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