「お風呂、先入らないでよ」

邪魔そうに退かされて逸らした体は鏡に近づいた。顔がくっつきそうになり、くわえた歯ブラシが表面にぶつかって高い音を鳴らした(どうでもいいけど、その歯ブラシが喉の奥に行きそうになって軽くえづいた)

ゴム靴が床でキュキュッと滑り、ガタガタ閉まる栓の音は響いて外にも聞こえる

歯ブラシを外して目を細めた

この状況は、妹に橋本くんの彼女を知らせた次の日を思い出させる


「付き合うことは出来ないけど……でも告白は、思いを伝えることはしてもいいんじゃないかなって思う」


あの晩、部屋から出てこなかったさくら

翌日の昼間、遅く起きてシャワーを浴び終わった後、提案したのはこんなこと

泣き腫らし、充血した目を見て、言わずにはいられなかったお節介


「何言ってんの?」

妹は言った。明るい茶色の毛先からぽたぽた垂れる雫を拭う手が止まる

「もし…、もしも区切りがつけられないなら思いを告げてリセットするのもありだと思うんだ。そのまま思い悩んでるよりもずっと。だから」


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