明治六年春



「先生、見て」



太郎が半紙を手に声を上げた。



「おお、良く書けてるな」


手代木が太郎の頭を撫でながら言った。

表の方から声がした。



「太郎、迎えにきたよ」


手代木が太郎を連れ、玄関に行くとざるに野菜を抱えた太郎の母がいた。



「先生、これが月謝です」



太郎の母は済まなそうに、野菜の載ったザルを差し出した。


手代木は数年前から東京の下町で寺子屋を開いていた。



授業料は必ずしも金で取らずに、食べ物や大工の子弟なら寺子屋の修理とかでも良しとしていた。



今日、太郎の母は野菜を持ってきたのだった。