「ゆーすけくんっ! うちらと一緒におひるたべよーよっ」

四時間目の退屈な授業が終わると同時に私のクラスの女子はアイツの席へと一目散に走り出した。

「あぁ、ごめん。今日は二組の絵美ちゃんと食べる約束したから無理なんだ」

「えええっ!! じゃあ明日はっ?」

「明日は……ちょっと待ってね」

そう言ってスケジュール帳をパラパラとめくり始めた。
忌々しい奴め。

「ごめん、みんな。明日は五組の実那ちゃんと約束してるんだ」

「そんなぁ〰〰っ」

周りの女子が落胆の声を上げる。
ざまぁみろだ。
そんな女子たちを横目に私は三日前に図書館で借りてきた小説を机上に広げた。

「なぁにやってんのっ!!」

前の席に座った人間からいきなりやかましい声が発せられる。
私はゆっくりと文字の羅列から目の前の人間へと視線を上げた。

「モテる男は辛いわね。向井優介君」

最大限の皮肉と憎しみをこめてそう言った。

「なにさ、もしかして愛理ってば妬いてるのっ? かわいいな、ほんとにもうっ」

こいつ、馬鹿なのだろうか。
私のこの怒りが理解できないのか?

「喧しいです」

「もうっ、怒った顔も可愛いよっ」

こいつの対応はあくまで冷たく、調子に乗らせたら最後だ。

「はいはい」

けれども、仮にも顔面の方はイケているので爽やかな笑みでこんなことを言われると多少なりともときめいてしまう。
不覚だ。

「まぁ、俺の彼女なだけはあるよなっ」

そう言いながらも廊下でこいつを見に来る他クラスの女子に手を振る向井の姿。

前言撤回。
そう、こいつ。
この忌々しい超絶女たらし男はどういうわけか私の恋人なのです。