電話の向こうからはテレビの音のようなものが聞こえてくる。
「今、電話大丈夫か？」高橋がそう聞くと、サトシは、あぁ大丈夫と答えた。
二人は10分ほど会話をし、また会いたいよなと互いに言い、電話を終えた。
サトシは高校三年の夏に彼女ができた。そのことは僕も覚えている。
そしてまだその彼女と付き合っているらしい。
もう三年だ。しかも高橋から聞いた話では、この二年間は同棲していて結婚を考えているようだ。

プロポーズってどんな風に言えばいいんだ？とサトシに尋ねられた高橋は、それはまだ未経験だから分からないが、と答えた後に
「流れ星を見ながらプロポーズってのはどうだ？」
と冗談まじりに伝えた。

高橋にとって、それは本当に冗談だった。
しかしそれはしばらく後に冗談ではなくなることになる。
だがこの時点での僕たちがそれを知ることはない。

サトシはその他にも高橋に話をした。
僕たちの同級生にちょっと変わり者のジュンというやつがいて、高校時代の彼に、特に親しい友人がいたという話は聞いたことがなかった。
僕も彼とは親しく話した記憶はないし、高橋も彼とは親しくはなかった。
そんなわけで高橋はサトシがジュンと連絡をとっていたことに驚いた。
サトシの話によればジュンは20歳にして悟りを開いた賢者のようにこの街を出て、ボランティア活動のためタイのバンコクに飛んだらしい。
相変わらず変わった奴だ。
なにやら街を歩いていて、そう決心したらしいが。

そしてサトシはなんと竹内さんの連絡先を知っていた。