窓からグラウンドを見ていた。
休み時間は10分間だ。
それだけあれば十分だと浩平は思った。
別にトイレに行きたいとも思わない。
次の授業は...数学だ。
またあの色褪せたグレーのジャケットを着た眼鏡教師...浩平はどうしてもその数学教師を好きになることはできなかった。

浩平が高校に入学してからもう二ヶ月が経った。
四月の新鮮な気持ちも風に吹き飛ばされたようにどこかに行ってしまい、後には夏の暑さだけが残った。


課題はきちんと済ませているし、しっかり今朝カバンにいれたのでばっちりだ。

グラウンドに生徒たちが歩いてくる。
次の授業が体育なのだろう。何の競技をやるのか知らないが、俺には興味ない。

「なぁにしてんの?」

浩平の背中の向こうから誰かが声をかけた。
振り向くまでもない、この声は智美だな。
浩平が振り向くと、案の定そこには智美がこっちを見て立っていた。

「ただグラウンドを見てただけだよ。休み時間だしさ。休憩、休憩。」

そう答えた浩平に更に智美は話し掛けた。

「あのさぁ、数学の課題...やってるよね?」

「あぁ、もちろんやってるよ。」

窓を開けた教室にグラウンドへ向かう生徒たちの話し声がわずかに入ってくる、初夏の生ぬるい風と一緒に。

「浩平は数学得意だもんね!悪いんだけどさ、写させてくれない?課題のことすっかり忘れてて。」