外はあいにく雨が降っていた。
どしゃ降りではなく、音も静かで決して敵意を感じるような雨ではなかった。
すみません、どうしても降らせなきゃいけない状況だったんで、という言い訳がどこかから聞こえてきそうな雨だった。
僕は玄関脇に立て掛けてあったビニール傘を手に取り、小雨の降る中コンビニへ向かった。
コンビニまでは歩いて15分といったところだ。
僕は開いた傘を右手で持ち、通り慣れたコンビニまでの道を歩いた。
途中、自動販売機を蹴っている少年を見かけた。
希望のジュースを自動販売機が備えていなかったのか、それともお釣りがでてこないのか...僕にはそのあたりの事情は全く分からないが、とにかく少年はその自動販売機に対して腹を立てているように見えた。
もしかしたら彼は自動販売機が動かない物体であることが単に許せなかったのかもしれない。

自動販売機は動けない。

そして僕らは嫌でも動かなくてならない。ずっとじっとしていることなどできるわけがない。どんなにじっとしていても僕らの臓器はしっかりと動き続けている。
動くことを止めるということは、僕らにとっては存在が消えてしまうことなのかもしれない。
泡のように、儚い存在なんだ、僕らは。

僕はさっき見ていたテレビのテニス中継を思い出した。
プレイヤー二人はコート中央のネットを挟んで駆け回っていた。
もし彼らが共に動くことを止めてしまえば、試合は一体どうなるだろう?
もはやテニスとは言えない。
写真や絵画と同じ、ただの静止画だ。
タイトルを付けるなら、『黄色いボール、二人の男』だ。