僕が小さかった頃の話をしてもいいかな?

子供の頃、僕はミートソース・スパゲティが大好物だった。
ナポリタンではなく、ミートソースだ。
それも、イタリアンレストランとかファミレスで食べるような...そういったものではなくて、夕食に母が作ってくれる...そんなミートソース。

「夜ご飯、スパゲティにしよっか?」

そんな母の声を聞くと、僕のテンションはどこまでも上がった。
どこへでも飛べそうなくらいに。
僕がミートソースが大好物なのを嫌というほど知っている母が、スパゲティと口にするとき、もちろんそれはミートソースと決まっていた。
もしくは、夜ご飯なに食べたい?などと聞かれたとき、僕は即答した。

ミートソース・スパゲティと。

もちろん、願いが叶わなかったこともあったが。

さぁ、夜ご飯がミートソースと決まれば僕にはやらなくてはいけないことがある。
着替えて準備をしなくては。

僕は母の手をしっかり握り、ウキウキした気分で買い物について行ったものだ。
スーパーマーケットに向かって歩く道、僕は母の言いつけを守りちゃんと足元を見ながら歩いていた。
そうやって足元を見ていると、歩道のあちこちがとてもキラキラ輝いていて、僕はついつい右に左にと首を振り、ずっと余所見ばかりしていた。

車道を走るたくさんの車は、色とりどりで形も様々だった。
すれちがう大人の人はとても大きく見えたし、可愛らしい洋服を着た僕と同い年くらいの女の子は洋服に負けないくらい可愛かった。

僕の目には見えるものすべてが輝いて見えた。
ミートソース・スパゲティの魔法かもしれない。
もしくは、ミートソース・スパゲティに心を踊らせている僕の気持ちを、午後のやや西の方に傾いた太陽が照らしたん時にのみ発生する特別な輝きだったのかもしれない。