ユウタは男を見つめたまま、男の歌を聞いていた。
最初、ユウタは男が何を歌っているのかよく分からなかったが、よくよく聴いてみるとそれは英語だった。
男は英語で歌っていた。
ただ、よく聴いてみると歌われている曲には聞き覚えがあった。
確かだいぶ昔にヒットした曲で、今でもテレビなどで耳にすることがある洋楽ナンバーだ。

誠実とはなんと寂しく聞こえる言葉だ...。

確かそんな歌詞のバラード曲。

ユウタは立ったまま、より強くなっていく自分の鼓動を感じていた。
そして思い立ったようにユウタはその男の方へ歩いた。

一歩、一歩...足音と鼓動を感じながら。

男の方も近づいてくるユウタを視界に捉え、一瞬ユウタをちらっと見たがコードを掻き鳴らす腕の振りは止めなかった。
そして歌うことも止めなかった。

ユウタとその男の距離は縮まった。
二人の距離は一メートルくらいだろうか。
ユウタが口を開いた。

「こんばんは。」

歌っていた男は動作を一旦止め、ユウタと同じく、こんばんは、と言った。
男の両目は、しっかりと、ユウタを見ている。
そしてユウタもその男の目をじっと見た。

男の瞳は、街灯から届く僅かな光のせいか不思議な色に輝いていた。
それは、黒でもなく、ブラウンでもなく...。
...強いて言うならば、オレンジに近かった。

とにかく不思議な色だった。

そして僕をじっと見つめたまま、彼はにこりと笑った。

(つづく)