「ところでホロホロらーめんって知ってます?」

そのとき彼が突然そう聞いてきた。

…ホロホロらーめん…?

初めて聴くその不思議な響きに、僕は戸惑いさっきまで何を話していたのかも忘れてしまい、あげくのはてに、僕の頭の中には奇妙なラーメン像が浮かんできた。

…ホロホロらーめん。

僕の頭に浮かんだそのイメージはとてもメニューとして提供できるようなラーメンではなかった…。

「僕、富山出身なんですけど地元のラーメン屋にホロホロらーめんってメニューがあるんですよ。僕も初めて名前見たときはびっくりしましたよ。」

彼は僕を見ながらそう言った。
よほど僕が困惑し、おかしな表情をしていたのだろう…彼の口元は笑っているように見えた。
もしくは地元を懐かしく思い出し微笑んだのかもしれない。

余談だが、彼の微笑みは実に爽やかだった。

彼は話を続けた。

「確か一年くらい前かなぁ、彼女とデートしててお腹すいたねってことでそのラーメン屋に初めて寄ったんですよ。近くには、ほら有名な神通川が流れてて…その店のご主人は水墨画を書いていらっしゃるんです。」

僕は水墨画を書く店主が、さっき頭に浮かんだ奇妙なラーメンを調理する姿をイメージした。

うまくはいかなかった。

「ホロホロ…ラーメン…水墨画。」

僕は与えられたキーワードをヒントに何かのクイズに答える解答者になった気分だった。