五月の深夜の風にはまだいくらか冷たさが残っているけど、僕は今、あなたの存在が与えてくれる温もりに守られている。

「ありがとう。」

と、声を出してみる。
もちろんあなたに対して。

いつもそう思っている。
あなたに出会えたこと。
あなたと時間を共有できること。
そして、互いに愛し合えること。

あなたにこの気持ちがしっかり届いて欲しいと思う。

風が強くなってきた。
そろそろ行かなくちゃ。

そうそう、大事なこと伝え忘れてたよ。
それを伝えるために、あなたの所へ来たのに。
こんな深夜にさ。

僕ね、何か書いてみようと思うんだ。
どんな物を書きたいのかもはっきり分からないし、上手く書くことが出来るか自信もない。
それでも何か書いてみようと思うんだ。
そして出来上がった物をあなたに見てもらいたいと思ってる。
そのときは感想を聞かせて欲しい。

何かが始まるんだ。
ここから、新しい何かが。
ここが始まり。

そんな予感を胸に僕はあなたの部屋の前を立ち去った。

背後のマンションに灯る明かりは、さっきよりも数が減り、足元を照らしていた蛍光灯もいつの間にか消えていた。

ただ、そのためか月がやけに明るく輝いて見えた。