そのとき店のドアが開き、学生風の男の子が入ってきた。
高校生くらいだろうか、手にはコンビニのロゴがプリントされたビニール袋を持っている。
一瞬、そちらにやった目を、また正面の高橋に戻す。
「あぁ、あの子な…」
と言い始めた高橋は一度言葉を止めた。
ん?と聞き返した僕の言葉を聞き流し、高橋はあのな…と呟いた。

「ま、さっきも言ったように地下鉄に乗って帰宅しようとしてたんだ。そのとき座席に座って目の前に見える景色をなんとなく見てたんだよ。そのときにな、急に違う景色が見えたんだ」
「違う景色?なんだよ違う景色って?」
「文字通り。目の前には電車の窓から見える流れていく景色があるんだ。そして同時にそこに違う景色もあるんだよ。右目と左目が別々の景色を見てる感じ…片方は普通の景色、もう片方はここには存在しない景色って感じだな」
「それって頭の中に浮かんでるだけのイメージみたいなもんなのか?視覚的にではなくて」
「いや、見えるんだよ、視覚的にな」
「さっき男の子が入ってきたときに何か言おうとしてたよな?あと…ほら、さっきのギターケース持った男の人のことも。あれもそうやって見えたことなのか?」
「そうだよ。見えたんだ」