あなたの存在をしっかりと感じる。

この窓の向こう側にあなたがいるんだ。

深夜三時のマンションの通路には僕、ただひとり。
通路は蛍光灯に照らされ足元には輪郭のぼやけた僕の影が写っている。

僕はあなたの住むマンションの
あなたの部屋の前に、今、立っている。

たったガラス一枚…。
その脆くて薄っぺらな磨りガラスを隔てて、僕らは今こうして仕切られた別々の空間にいる。

僕はあなたの名前を呼ぶ。
とてもちいさく、それでいてとても強い声で。

声は冷たく無慈悲な磨りガラスの向こうには届かない。
もっとも声がガラスの向こうに届いたところで、あなたの耳元に届くことはない。
こんな時間だ…あなたはもう寝ているに違いない。

僕は寝ているだろうあなたを想像する。
可愛い寝顔…そしてあなたが見ているだろう夢のことを。
その夢の中に僕はいるのかな?
夢の中で、あなたは僕に出会えているかな?
出会えているといいなと思う。

『夢の中になおがでてきた。』

この間あなたから送られてきたメールにそう書いてあった。
なおというのは僕の名前だ。

最近僕らはなかなか会うことができない。
あなたはきっと寂しく感じているだろう。
それは分かっている。
同じくらい…もしくはそれ以上に、僕も寂しく感じている。せめて夢の中では二人一緒にいて、そして手を繋ぎ、一緒に笑っていられたらいいなと思う。