ハッピーエンド

増して、見てはいけない物を見る訳でもないのに、僕はすごく緊張していた。



思えばこの時点で、僕の行動は恋以外の何物でもない。



けれど僕はそれとは気づかずに、彼女を盗み見る。



怪しまれないよう、そして出来るだけ長い時間見て居られるように、丁度いい木の幹に背中を預ける。



パイプ椅子に腰掛けて、彼女はおそらくは自分の読む原稿をトントンと揃えていた。



姿勢が良い。



胸元までかかりそうな髪の毛を後ろで一つに縛り、鉢巻きをきっちりと締めている。



しっかりした人。



そんなイメージだ。



外も暑いが、テントの中は余計なのだろう。



流れる汗を時折ハンカチで拭いている。



そのハンカチを、団扇代わりに扇いだりする。