放課後の匂いは、なんと表現していいのか分からない。



汗の匂いと誰かの香水と。



鉛筆の匂いに、チョークの粉の匂い。



弁当の匂いと、グラウンドの舞い上がった砂の匂い。



それらが混ざり合って、なんと言うか、今の僕にとっては少しだけ切なくなる匂い。



今は思い出すことしか出来ないけれど、確かにそこにはあったのだ。



「誰にも言ってない事があるの」



彼女は言って、くすりと笑った。



オレンジ色の教室には、僕と彼女しかいない。



蒸し暑くて困るからと、窓を開けて、白いカーテンが時折風にぶわりと広がる。



誰もいない。



放課後。



「誉(ほまれ)君にだけは話しておきたいと思って」