キミ色

聞いてはいけないことを俺は聞いてしまった。
入り込んではいけない所に俺は触れてしまったのかもしれない。


「─………」


言いたくない事を俺は無理矢理言わせてしまったのだろうか?
後悔が俺の胸の中を支配していく。



きっと、時雨みたいに何でも完璧に出来る奴なら、何か気の利いた言葉をかけてあげられるんだろう。
でも、俺にはその能力がない。
俺には、黙っていることしか出来なかった。



「凄い急だったの。あたしは学校で、聡は保育園にいた。ママとパパね、その日おじいちゃんのお墓参りに行くって言って、あたし達を見送ってからすぐに車で家を出たんだ。



…でもさ─…その車がね………」



ずっと我慢していた泪が溢れ出したように、蓮の目を埋めていく。
思い出したくないと頭が訴えているように、蓮は頭を抱えた。



「…言わなくていいよ。辛いことをわざわざ思い出さなくてもいい。」


そんな俺の言葉を無視して、蓮は喋り続ける。
本当は誰かに聞いて欲しくて仕方がなかったかのように、本当は誰かに甘えたくて仕方がなかったかのように…



「朝あんなに元気だったのに…、同じ一日が始まって同じように終わっていくと思ってたのに…、その日帰ったらもういないの─……


……信じられなかった、
あんなに適当に言った“行ってきます”が最期になっちゃうなんて…」



『あんなに適当に言った“行ってきます”が最期になっちゃうなんて…』
『あんなに適当に言った“ばいばい”という言葉が、本当に永遠の別れになるなんて…』


俺の胸の中で響き合う俺の声と蓮の声。
何ともいえない想いが、俺の胸をギュッと締め付けて放さない。