廊下を歩いて行く俺の足は序々に早くなって行く。
そして、靴を履いて走ろうとした時だった。



…俺の腕を誰かが掴んだ。
振り向いた俺の目が捉えたのは、泣き崩れる蓮の姿だった…




「……櫂…、あたしだって…──あたしだって…怖いよ……──」




蓮……




「…助けて…櫂……、傍に…いて……──」




俺の腕を掴む蓮は、決して放そうとはしなかった。
むしろ、強くなっていく蓮の握力は、俺の決心を少し揺るがせる。




でも、その時蓮の手から1枚の紙が零れ落ちた…
その紙は…、俺が忘れていた1枚の手紙だったんだ──…




咄嗟にぱっと掴もうとした蓮より先に拾ったのは俺だった。
その拾ったくしゃくしゃになった紙にあの可愛い丸文字で“櫂”という文字が見えた。




この字は…
この丸文字は、俺のポケットにも入っているのと同じもの…



そう確信した俺は慌てて紙を広げた。








『櫂へ
 7/20だけは、家に帰ってきて欲しいんだ。
 この日だけでいいから、お願い。
        空羽』