キミ色

でも、キッチンにはオーナーではなく桐生さんがいた。
夜になると、喫茶店からレストランに変わる「MiLky」の夜メニューのしたごしらえを淡々とこなしている。



桐生さんの手によってリズムよくなる、トントンという音。
それを聞いていると、桐生さんがふと手をとめてこっちを向いた。


あ…
やば、邪魔しちゃったかも…。



「あ…、すいません─…」


「いやいや、謝んなくても。」


「あ、俺も手伝います。」


「本当に?助かるよ。」



優しい笑顔を見せてくれる桐生さん。
まるで、人柄が前面に滲み出てるようだ…



近くにあったまな板と包丁を取って、湯煎にかける。


よくやってたな…これ。
いっつも時雨とじゃんけんしてどっちがやるか勝負してたっけ…



「桐生さん、ここに置いてあるやつやっていいんすか?」



目の前に置いてある大量のキャベツを指差し、俺は桐生さんの方を向いた。
でも、桐生さんは黙々と自分のキャベツを切り続けている。


あれ…?
声、小っちゃかったか…?


「桐生さん?」


さっきより少しボリュームを上げてそう言うと、はっとしたように桐生さんは振り返った。



「あ、ごめん。俺のことだよな。」