キミ色

少し笑いながら若菜チャンは足を崩した。
爽やかな風が、今日は大人っぽく巻いている若菜チャンの綺麗な髪の毛を靡かせる。



その様子はとても可愛くて、そして…、美しい。
それは、俺が女性を初めて美しいと感じた瞬間だった。



蓮は、彼女だからか解らないけど、愛しいと感じる。
空羽なら、愛くるしい。
花音なら、きっと恋しい…と。



若菜チャン…、キミは美しい。




「ありがとね…櫂くん。」


小さく呟いた声は、きちんと俺の耳へと届いた。
小さいかもしれないけど重たいその想いは、ちゃんと俺の胸の中に仕舞われる。



「俺、なんもしてないし…」



正直な俺の気持ちだった。
こんな無力な俺に、そんな綺麗な言葉は勿体無いぐらいだ。



勝手にこんな場所まで連れてきて、いい迷惑だったのかもしれない…
俺は、若菜チャンを少しでも落ち着かせてあげられているのだろうか?



「若菜ね、きっと一生櫂くんのこと忘れられなくなるよ」



「一生?」



「そう、一生。若菜がね、白髪のおばあちゃんになっても、きっと今日のことを懐かしむの。この想い出は一生消えない、若菜が死ぬまで…ずっと。」



その言葉は、何よりも俺が欲しがっていた言葉だったのかもしれない。
俺は、その言葉1言1言に確実に救われていた。