キミ色

曲がった俺と若菜チャンの目の前には、小さな隠れ処が広がった。
ここは、俺がよく授業をサボるために来る場所だ。



いつも屋上に行くのだが、上に屋根があるここは雨が降った時のためのサボり場だ。
ここは本当に人気が少ない。
それに、意外と眺めが良く、運動場で授業をしている生徒達など丸見えなのだ。



「すごーい、こんなとこあったんだ…」



俺の手から解放された若菜チャンは、そう言うとフェンスに近づいた。



「あんま行き過ぎたら、先生に見つかるよ?」


一応脅しをかけたが、全く止める気はないらしく若菜チャンは運動場を眺め続けている。
俺は、今日朝からずっと走らせっぱなしの足を休めるために、床に寝転んだ。



さっきまでの泪が嘘のように、今はキラキラとした瞳を向ける若菜チャン。
その様子を見て、俺の心も少し軽くなっていた。



ここにいる間は、全て忘れられる…
ふと、そんな気がした。



嫌なこと…、苦しいこと…、辛いこと…、酷いこと…、
全てから解放されるような、そんな気が─…



そんな訳ないのは、わかってる。
でも、現実から今逃げたいと想ってる自分がいるのは確かなようだ。



嫌でも目に映る澄み切った空。
どうして今日に限ってこんなに澄んでるんだろう?



こんなに空が綺麗なのに…、どうして?
せっかく…、花音が今日は顔を出してくれたというのに…



花音…
キミはどう想いましたか─……?