キミ色

ほとんど人がいなくなった教室の中で､俺はぽつりと突っ立っていた。
箒を持った何人かの生徒の間で､1人立ち尽くしていた。


まだ､さっき起きた出来事に現実味を感じれなくて…
あんな一瞬のうちに起きたことなんて､まるで夢のように想えて…


でも､掴まれた方の手の中に残る小さな紙が､夢ではないと俺に教えてくれていた。



生温かくなっていた紙は､俺の体温で余計に温められていく。
俺はその2つに折られていた紙を何故か開けることが出来なくて､掌の中でキツく握りしめていた。



オレンジ色に染まり始める教室。
さっきまで箒で野球をしていた男子達も､帰ってしまった。


静かな教室に1人､まだ戻ってこない蓮を待っていた。
ぽつんと残る俺とたたまれた1枚の紙。



そこに､俺を呼ぶ声が聴こえた。


｢…槻丘クン!｣


どこか懐かしいような声に顔を向けると､そこにはやはり懐かしい表情があった。


｢若菜チャン…?｣



そう教室のドアのところに立っていたのは､蓮の親友の若菜チャンだった。
少し茶色に染めている巻き髪を2つにくくっている若菜チャンは､いつもより少し子供っぽく見える。


でも､その顔は少し沈んでいるようにも見えた。
何かに必死で耐えているような…そんな表情。



若菜チャンも､蓮に似て人一倍強がりだったね。
他の誰よりも我慢強かったよね…



俺はそんな若菜チャンが少し羨ましかったよ─…。