なんとなく気まずい。家族のはずなのに、まるで家族とは異なる空気感が部屋を埋め尽くす。美優は美喜の言う通り、一緒に暮らさなくて良かったと思った。記憶があるなら、家族の事や学生時代の話、趣味の話など色々と話せる。しかし、記憶がないとなると共通する話題が見つからない。これでテレビを点けていなかったら、とても間が持たなかっただろう。
「あの芸人面白いね。」
美優が言う。
「・・・そうだね。なんて言う人?」
美喜が聞く。
「児玉よしおだよ。おっぱらぴーってやるんだ。」
この場の雰囲気をどうにかしようと、幸男も必死だ。しかし空回りにしかならない。
そして、またしばらくの沈黙が続く。この繰り返しだ。
美優は何度も時計を見る。どうにかして時を早く進めようと試みているようにも見えた。ただ、美優の思惑に反するかのように、時計の針は遅く、いっそう遅く進んでいくように見えた。