「ごめんなさい。嘘です。ジュースじゃないです。」
「じゃあ、これは何?」
人差し指でシミを指した。
僕は言葉に詰まった。
「これは何?」
もう一度、叔母さんはゆっくりと言った。
「ごめんなさい・・・。泣いてました。」
「そうかい・・・。泣いてたのかい・・・。」
怒られると思った。しかし、意外な事に叔母さんは寂しそうな顔をした。
「あれ?どうしたの?」
「幸男は叔母さんといるのが嫌なのかな・・・って思ってね。」
母さんがいなくなってから、僕は叔母さんに育ててもらっていた。すごく料理もおいしいし、いろんな事を教えてくれる。嫌いな訳がない。
「そ、そんな訳ないよ。」
「そうか。だったら、泣かないで欲しいな。幸男が泣いていると・・・叔母さんと一緒にいるのが嫌なのかなって思っちゃうから。」
叔母さんの言いたい事はわかる。でも、母さんがいなくなって寂しいんだ。そんな簡単に涙がなくなるなんて思えない。
「う、うん・・・。」
「そんな顔しないの。幸男は幸せな男って書くんだよ。そんな名前なのに、哀しそうな顔ばかりしてたら、幸せが逃げちゃうよ。」
僕には幸せってのがなんだか、まだわからなかった。でも、なんとなく叔母さんの話を聞いていると楽しい事っぽい。だとすると、僕の名前はとてもいい名前だ。
「じゃ、どうすれば逃げないの?」
僕は聞いた。
「それはね、笑っている事。いつも、いつも笑っている事。」
「それだけでいいの?」
「うん、それだけでいいの。考えてごらん。いつも泣いている幸男をお母さんが見たらどう思う?」
「あまり良くないと思う。」