「歯が痛いの?」
体に不釣り合いな大きなランドセルを背負った男の子が話しかけてきた。幸男だ。
「ううん、歯は痛くないよ。どうして、そう思ったのかな?」
「だって、ほっぺた押さえているから。僕、歯が痛い時そうするから・・・。」
笑いながら答えた。
すると、困っていた老婆も思わず笑った。
「そっかぁ、そうだね。でもね、困った時にもぽっぺに手をやったりするんだよ。」
「そうなの?知らなかったぁ。いつも叔母さんが困っている時は、はぁ・・・ってため息するんだよ。でも、なんで困っているの?」
なんとなく老婆はうれしかった。これだけ人がいるのに、誰一人して自分に気がついてはくれなかった。それがこんな小さな男の子に心配してくれた。幸男のやさしさがうれしかった。
少し間をおいてから答えた。
「おばちゃんね、孫の所に遊びに来たんだけど迷子になっちゃったの。それでぽっぺに手をやって困っていたわけ・・・。」
「迷子かぁ。それじゃ困るよね。おばあちゃんはどこに行きたいの?」
老婆はいつの間にか、幸男に心を許していた。手に持っていた小さなメモを、幸男に見せた。
「日・・・町・・・。」
「そっか、まだ読めない漢字もあったかな。これは日向市河津町って読むんだよ。」
「えっ、河津町?じゃ、僕んちの方だよ。」
「本当に?」
「うん、見てよ。これ。」
ランドセルに書いてある住所を見せた。確かに河津町と書いてある。
「ねぇ、僕。おばちゃんを道案内してくれるかな?」
「いいよ。」
大きな声だ。そして屈託のない笑顔だ。