社長の溺愛




それからしばらくしたころだった



事件は起きた


否、既に始まっていた





俺は1人、社長室で仕事をしていた



プルルルル…プルルルル


着信を知らせる携帯に手を伸ばす


相手は確かめずともわかる



《もしも《慎!》


し、と言い終わる前に遮られた言葉


電話口から聞こえるのはガタガタという乱暴にノートパソコンを叩く音と、息切れしたような幸弘の声だった


ただならぬ雰囲気を感じた



《幸弘?どうした…》


《翼…ちゃん…が…》



途切れ途切れのその言葉に俺の心臓は大きく跳ね上がった


ドックン…



血が加速するような感覚に襲われる



《翼が…どうした》



俺から出た声はとても低く、自分のものとは思えないほどの威圧感を持っていた