――"堕ちていく"
そんな感覚しかわからなかった。
どこへ行くのか、どうして行くのか。
私は知り得ない。
「あ、れ……?」
気が付けばそこには見たこともない景色が広がっていた。
そこはただ真っ白なだけの殺風景な部屋。
あたしは言葉を失う。
今、あたしは確かに図書館にいたはず。
慌ててもう一人の姿を探す。
彼は……、彼の姿がない……。
一体何が起こったんだろう。
ここはどこなんだろう。
彼は一体何者で、どこにいるんだろう。
"アリス"とは誰なんだろう。
「なんなのよ…っ」
不可解なことが多すぎる。
あたしは両手で頭を抱えその場に蹲った。
これは夢?
どうしてあたしがこんな目に……。
――カシャン
「!」
乾いた金属音が聞こえて、あたしはびくっとしながら振り返る。
真っ白な空間に浮かび上がるような金色。
ひとつの懐中時計がまっさらな床にポツリと所在なさげに落ちていた。
きらきら光るそれに、あたしはゆっくりと手を伸ばす。
「アリス……?」
突然背後から聞こえてきた声に、さっき以上にびっくりしながら振り返る。
後ろに人なんていなかったはず。
「アリス…っ。ほんとにアリスだっ!」
「え……?」
嬉しそうに笑う声の主は、この部屋同様白い服に身を包んだ少年だった。
くりくりとした目を輝かせて、心底嬉しそうにあたしを見てピョンピョンとはねている。
驚いたのは、その子の姿。
人間としてあるべきじゃない、頭の上の方にぴょこんと突き出たウサ耳。
髪の毛は目が覚めるほど白くて、嬉しそうに細められた瞳は赤い。
コスプレ……?
そしてこの子もあたしをアリスと呼んだ。
何か知っているのだろうか。