ここの図書館は少し変わっていて、テラス席のようなスペースがある。

雨の日以外はそこで本を読んでも良いらしい。


彼に連れられて、あたしはそこに初めて行った。


心臓は破裂しそうなほどに脈打ってる。

あんなにも毎日見つめ続けた彼があたしの手をひいていて、これから話をしようとしている。


ていうか話ってこの本の内容とか?

あたしが頷いたから、意気投合できると思わせた…!?


あたしそんなに不思議の国のアリスについて詳しくないし、内容もうろ覚えだよ。

そもそもその本は本当に不思議の国のアリスなんだろうか。



「君、この本読んだことある?」


彼はあたしを木の椅子に座らせ、自分はその向かい側に座るとにっこりと笑って言った。


「あ、まだ読んでないです…」


消え入りそうな声でそう言う。

多分今のあたしの顔は真っ赤になってる。

頬が熱い。


本当に目の前の人は綺麗で、あまりにも綺麗すぎるから、あたしはつくられたものと向き合っているような緊張感を感じていた。

人形、いや彫刻。


芸術作品のようにできすぎた人だ、と思った。



「不思議の国のアリス、って話は知ってるよね?」

「…っ、はい」


彼に見とれていたあたしは、その彼が急に紡いだ言葉にはっとして答えた。

くすくすと笑いながら彼は続ける。


「この本はね、そのリメイク版みたいなものなんだ。誰かがあとから書いた話」

「そうなんですか…?」


童話のリメイク版…、なんか面白そうだな。

そんなことを思いながら彼の話に相づちを打つ。


しばらくしてから、あたしは聞きたくてうずうずしていたことを口にした。



「あの、毎日それ読んでますよね?好きなんですか?」



言ってから失言だったと気付いた。

あたしが彼をずっと見ていたことが気付かれるじゃないか!


しまった、と思ったのに彼は優しく微笑むだけだった。