鐘の音が鳴る。


それと同時にあたしは鞄を掴んで席を立った。

ガタンッという音が派手に響いて、一斉に教室にいる人全員から注目される。


「おいっ、まだHR終わってないぞ!?」

「急いでるんで!」


みんなの視線を背中に受けながら羞恥心を必死に抑え、あたしは教室の外へと駆け出す。



「こらーーーっ!!!!」


悲痛な先生の叫び声が、走り出したあたしに届くことは残念ながら叶わなかった。






あたしには最近、好きな人ができた。


名前も知らないような人。

いつも図書館にいて、いつも同じ本を読んでいるその人。


儚げな横顔が綺麗で、最初に見つけたときから目が離せなくなった。

その日からあたしの日課は、その人を観察することになった。

いや、ストーカーとかじゃなくて。


そして今日は金曜日。

理由はわからないけど、金曜日だけは彼は早く帰ってしまう。


イコール、金曜日は見れない。

そんなのはイヤだ。


だから元来行動派なあたしはこうして学校を飛び出してきたわけです。



それなのに。




「いない……」



いつもより早い時間に図書館についたというのに、彼の姿はどこにもなかった。

突如襲いかかる脱力感に、あたしは肩を落とした。


せっかく恥ずかしい思いをしてまで早く来たのに…、いないなんて。



「!」


そこであたしはひとつのことを思いついた。