メリアは馬車から降り立つと、懐かしいその屋敷を見上げた。
 
 快晴の空の下、モールディング伯爵家の屋敷よりも遥かに古く、そして半分程の大きさしかないアダム・クラーク男爵家の屋敷へ足を踏み入れた。
 
(ここで雇われていたときは、すごく大きな屋敷だと思っていたけれど、こうして見ると、案外・・・)
 馬車から降りたメリアは、屋敷の呼び鈴を鳴らした。


 開かれた扉から顔を出したのは、なんとあのテレサだった。

「メリア!?」

 まるで幽霊でも見たかのような彼女の驚きぶりに、メリアはぎょっとした。

「一体今までどこへ行っていたの!?」
 テレサの目にはじわじわと涙が溢れ始める。
「テ、テレサ・・・??」
「わたし、あなたがここをクビになった次の日に、あなたの借り部屋を訪ねたのよ? でも、あなたも、あなたの荷物さえもどこにも見当たらないし・・・」
 メリアはこの時初めて、大切な友人にどうにかして連絡をすべきだったと反省したのだった。テレサはこの一ヶ月という月日を、どれだけ心配して過ごしていたことか・・・。

「ごめんね、テレサ。実は、クビになったその日の晩に色々あって・・・。訳あって今は別の屋敷で侍女をしているの・・・」
 テレサは安心したのか、メリアに覆い被さるように抱きついた。
「ああ、良かった・・・。あなたが無事で、本当に・・・」
 メリアもぎゅっと目を閉じ、大好きな彼女を抱き返した。