「僕はモールディング家の当主失格だな・・・。君一人守ることができないなんて・・・
 メリアの頭に「?」が浮かぶが、兎に角、主を励まさねばと思い、メリアは経験浅はかな記憶を懸命に巡らせる。

「大丈夫ですよ、パトリック様。わたしはこの通りピンピンしてますし、なんともありませんし・・・」
 パトリック抱きしめられたまま、メリアは彼にこう囁いた。

「人は誰でも失敗します。反省は必要だけれど、いつまでも過ぎたことを引き摺るのは愚かなことなんだそうですよ?」
 これは、いつしか、エドマンド・ランバート伯爵に言われたセリフに他ならない。 

 パトリックは抱きしめていたメリアから腕を放し、小柄な彼女を驚いたように見つめる。
「・・・メリア・・・、君はやっぱりすごいよ」
 
 人のセリフを真似ただけなのに、パトリックはメリアにどういう訳か感心してしまったようだ。
「へ??」
 なんだか訳の分からないメリアだったが、取り敢えずのところ、パトリックの態度が元に戻ったことに安心した。


 そして、パトリックは・・・、自身のメリアに対する特別な気持ちを、このとき初めて自覚したのだ。