結局、昨晩はあの後自宅に戻ったものの、皆目眠ることなどできる筈も無く、メリアは目の下に大きな隈をつくって、再び早朝から屋敷へとやって来ていた。

「まあ、メリアったら、なんて顔してるの? 昨晩あまり眠れなかった?」
 唯一の同い年で仲良しの友人、テレサが心配そうに侍女服に着替えるメリアに声を掛けた。
「うん・・・、まあね・・・」
 テレサはテキパキと侍女服に着替え終わり、仕上げに布製の被りの紐を顎下で蝶々結びするところだ。
「そりゃあ、あの騒ぎだものね。わたしだって少し寝不足よ」
 鏡の前で身だしなみを整えるテレサの言葉に、メリアは思わず聞き返す。
「騒ぎ??」

 ぎょっとした顔で振り向いたテレサは、
「知っているでしょう? 昨晩またあの大怪盗”闇の騎士(ダーク・ナイト)”が現れたこと」
 はっとしてメリアは思わず手で口を覆う。
「何? ひょっとして知らなかったの? メリアったら、相変わらず情報に疎いんだから」
 呆れたように、テレサが腰に手をやりくるりと振り向く。
「昨晩、わたし達がちょうど仕事を終えて帰宅した後ぐらいかしら・・・。ブランドナー男爵のお屋敷に例の大怪盗が侵入したらしいわ。で、何かを盗んだ後にいつものごとく闇に紛れて消え去った」
 肩を竦め、テレサはふうと溜息をついた。