「ねえ、お願い。わたしを連れて逃げて。貴方が一緒なら、わたしは・・・」
 彼女が胸に押し付ける頭ごしに、ちょうど屋敷の入り口を危なっかしい足取りで駆け下りる赤毛が見えた。

(メリア・・・!)

 よろめきながら、石段の上に座り込んでしまったメリアに、パトリックは今すぐにでも駆け寄りたい気持ちでいっぱいになる。

「パトリック・・・、どうして何も言ってくれないの・・・??」
 キャサリンの震える声も空しく、パトリックの胸には何の感情も沸き起こりはしなかった。今はただ、赤毛の少女の淋しそうな姿が目から離れない。
 パトリックは思った。今、あの石段の上で、メリアが一人泣いているかもしれない・・・と。

「すまない、キャサリン。君には申し訳ないことをしたと思っている・・・。けれど、僕は君を友人以上には見られないんだ・・。君がどうしても婚約したくないというのなら、僕からもデイ・ルイス侯爵に口添えをしよう・・・」
 それを聞いた直後、キャサリンはついに泣き崩れてしまった。

「ダメよ・・・! いくら貴方が話したところで、どうにもならないわ・・・! 兄さんはわたしをただの出世の道具としか見ていないのだもの・・・!!」
 パトリックは、彼女がひどく憐れに思えた。
 真っ白いハンカチーフを、いつかメリアに差し出したときのように、彼女にも差し出してやった。

「・・・僕は君を連れて逃げることはできない・・・。でも、君の幸せを願うことはできる」
 キャサリンは潤んだ目でパトリックを見上げた。