パトリックは、メリアの退出した後の部屋で、『ゴン』と鈍い音をさせて机の上に額をぶつけた。
 手に持った万年筆は、書類にじわじわと滲みを作っている。

「ああ・・・。自分が嫌になる・・・」
 
 あの日、夜会から立ち去ろうとするメリアの後を追おうとしたパトリックだったが、タイミング悪く、キャサリン・デイ・ルイスに呼び止められてしまった。
 彼女をすぐに追いかけることもできず、パトリックは一番気まずい相手と話をする羽目になったのだ。

 


「パトリック・・・。貴方からの手紙をずっと待っていたわ・・・」
 彼女に想いを打ち明けられたパトリックは、彼女に対して一切の恋愛感情を抱いていないことを正直に伝えた筈だった。
「・・・けれど、僕は君の気持ちを受け止めることはできないと話した筈だ・・・」
 バルコニーから、中庭を見下ろし、パトリックは彼女にそう話した。

「ええ・・・。でも、それは貴方の本心じゃないと思っていたの。きっと、貴方の照れ隠しなのだと・・・」
 キャサリンは悲しげにパトリックを見つめる。
「・・・残念だけれど、あれは僕の本心だよ。だから、今夜は君への祝福を伝えに来た」
 黒い瞳を潤ませ、キャサリンはパトリックの胸に駆け寄った。
「いやよっ! わたし、あの人と婚約なんてしたくない!! 祝福なんてしないで!!」
 
 こうなることはなんとなくここへ来る前からパトリック自身予想できていた。パトリックが一番避けたかった最悪の状況だった。