一方、メリアは数日前にアダム・クラーク男爵の屋敷で初めて彼に出会った日とのギャップにひどく驚いていた。
 とても紳士的で、そして大人びた柔らかい雰囲気。それがメリアが彼に抱いた初めての印象だ。

 ところが、ここでの彼は、まるで無邪気な少年のようだ。
 いや、こちらの彼が本来の彼に違い無い。ずっと無理矢理大人を演じなければならない環境にいた為に、彼は本当の自分を押し殺し、過ごしていたのかもしれない。
 けれど、メリアはそんな子どもっぽい一面を見せる彼を微笑ましく思っていた。

「わたしなどが選んでいいのですか? わたしなんかより、モールディング様がお持ちのセンスの方が、きっと間違いないと思いますよ?」
 困ったように笑い、メリアはパトリックに言った。
「モールディング様なんて呼び方は好きじゃないな」
 
 悪戯っぽい目を細め、パトリックはメリアに言った。

「でも、モールディング様はモールディング様です」
「君にそう呼ばれると、なんだか落ち着かないんだ・・・。僕のことはパトリックと呼んでくれない?」

 困惑して、メリアは慌てて首を横に振る。

「そ、そんな風には呼べません! だって、わたしはただの侍女ですよ!?」

 はっきりとメリアにそう断られてしまったパトリックだが、それでも彼は諦めない。
「君がそう言うなら、僕は君に”モールディング様”って呼ばれたって返事しないよ? それでもいいの?」
 う・・・、と言葉に詰まったメリアは、しばらく考えた後、しぶしぶ頷いた。

「分かりました・・・。でも、”パトリック様”とお呼びするのが限界です・・・」

 こくんと頷き、パトリックは白い笑顔を浮かべた。

「君は最高だよ、メリア!」