上機嫌でパトリック・モールディング伯爵は子どものようにはしゃいでいた。

「メリア、この服にこのスカーフはどうだろう??」
「わたしは素敵だと思いますよ。あ、でも・・・。モールディング様の柔らかい雰囲気には、こちらの色の方がお似合いかと」
 
 メリアに勧められた水色のスカーフをとり、首元に手際良く飾りつけていく。
 彼は単純に嬉しかったのだ。
 父親が亡くなった後、幼くしてこの伯爵家を継ぐこととなったパトリックにとって、子どもでありながらもずっと大人を演じ続ける日々が長く続いていた。
 父の残した地位や領地は大きくとも、本当の孤独を癒せるものは数少なかったに違い無い。
 父が亡くなったことで、雇っていた者の多くが屋敷を離れていってしまったが、唯一残ったのが父の執事であったセドリックただ一人だけだったのだ。
 お蔭で、彼は広い屋敷の全般と雑務をこなさなければならず、まだ子どもだったパトリックの傍でゆっくりと過ごす時間はそれほど取ることができなかったのだ。

 とても淋しい子ども時代を送ってきたパトリック。
 けれど、セドリックが自分を見捨てずにこの屋敷に残ってくれていたことにずっと感謝し続けていた・・・。
 早く、彼を少しでも楽にしてやりたい。彼に安心させてやりたいとずっと思い続けていた。

 そのくせ、街を歩けば自分とよく似た境遇や淋しい思いをした人を見かけるとついつい放っておけず、屋敷に迎えてしまう性分で。
 セドリックには、楽をさせるどころか苦労ばかりかけてきたこの十年だったのだ。

「メリアはセンスがあるね! よし決めた! 今度から君にも服を選んで貰おう!!」
 嬉しそうに鏡の前で微笑み、パトリックは手櫛で茶の髪を整えた。

 パトリック・モールディングにとって、メリアはこの屋敷で唯一自分との時間を共有してくれる存在となった訳だ。