ただ、まだ昼間の出来事がメリアの頭の中を駆け回っている。
 ランバート伯爵の完璧で非の打ち所の無い美麗な顔が脳裏を横切る度、メリアの心が萎えそうになる。
 
(兎に角、明日からなんでもいいから働き口を探さなきゃ・・・。せめて食べるだけのお金は稼がないと・・・)

 失敗を仕出かしたのは、誰でもないメリア自身で、決してランバート伯爵のせいでこうなった訳では無い。けれど、行きどころのない不安と苛立ちで頭がいっぱいになり、メリアは目尻に滲む涙を手の甲で拭った。


 後方から『カラカラ』と馬車を引く音が大きくなり、メリアは道をあけようと端に寄った。
  
「あれっ。君は・・・」

 馬車がメリアを追い抜き様に、頭上から聞き覚えのある声が降ってきた。
 不思議に思い、メリアは振り返る。
 馬車の窓から覗くのは、昼間に見たあの白く澄んだ笑顔の持ち主の顔だった。

 パトリック・モールディング伯爵。