雇われ侍女のメリアにとって、解雇を宣告されることは、まさに死を宣告されたも同じだ。

「メリア、悪いがうちではもう君を雇えん。別の仕事を探せ」

クラーク男爵が、二人の伯爵を送り出した後、はっきりとメリアに向かってそう言ったのだ。

「だ、旦那様、もう一度お考え直し下さい! メリアは、メリアは旦那様のお父様の代から仕えてきた侍女の家系でございます。どうか寛大なお考えを…」
 テレサが懸命にクラーク男爵に抗議してくれたが、こう見えてこの男爵、なかなかに強情っ張りで、結局のところテレサの願い空しく、メリアはこの日、職を失ったのだ。


 すっかり日も暮れ、夕闇に包み込まれたロンドローゼの街の片隅を、メリアは俯いたままトボトボと歩いていた。

(もう・・・、明日からどう生きていけばいいのかも分からないわ・・・)

 収入を失えば、今住んでいる貸し部屋の家賃も当然払えなくなる訳で。近いうちにメリアは住む場所さえ失うことになるだろう。
 もう、何もかもがめちゃくちゃだった。
 一日にして、全てが最悪の方向へと転んで行ってしまったようだ。