エドマンドは拳を自室の壁に叩きつけた。
 手が痛んだが、彼にとってそれは大したことでは無かった。

 メリアを近くに置くことで守ろうとしたことが裏目に出たことを、今は嘆くより他は無い。
 一族の恨みを晴らす為、アドルフ・デイ・ルイス侯爵の尻尾を掴み、彼を今の地位から引き摺り下ろし、二度と政界に復帰できぬようにすることだけを願い、十年前からエ
ドマンドは復讐心を燃やし続けてきたのだ。

(オレはどうかしていた・・・・・・! パトリックの優しさに甘えていたなどと!!)
 誰も自らの復讐に巻き込むまいと深く決意し、密かに燃やし続けてきた復讐の念。
 それがどうだろう、優しく友人思いなパトリックの協力に甘え続けてきたことに加え、突如目の前に現れたあのメリアという純真な少女さえも復讐劇に巻き込んでしまった
のだ。


”私は近い将来、彼女に婚姻を申し込むつもりでいる”

 そう言ったデイ・ルイス侯爵の言葉がエドマンドの頭の中に耳障りに駆け巡る。


「何が助ける、だ・・・。危険に陥れたのは、誰でも無い、俺自身だ・・・!」
 ボタンの弾けてしまったシャツを乱暴に脱ぎ捨てると、エドマンドは頭をぐしゃと掻き乱した。
 
(彼女をできるだけ奴から遠ざける。それしかもう道は無い・・・・・・)
 決意の篭った目で、エドマンドは天井をじっと見上げた。