「一体何事だ」
 エドマンドが屋敷の入り口での騒ぎを聞きつけ、上着をシャツ一枚だけの薄着で階段を降りてきた。
「エドマンド様・・・! そ、それが・・・・・・」
 いつになく慌てたような表情で、ジョセフがエドマンドに駆け寄る。いつもは冷静なこの執事がである。

「入り口で待つようにはお願い申し上げたのですが、急ぎの用件だと仰って中へ入って来られまして」
 開いたままの扉の前で、威圧的な空気を隠しもせず、あの男が階段上のエドマンドをじっと見つめていた。

「これは、デイ・ルイス侯爵」
 一瞬目を見張ったエドマンドだったが、すぐさま冷静な表情に戻った。
「この前は舞踏会への招待どうも」

 そう言ったエドマンドの言葉を無視し、デイ・ルイスは冷ややかな目をエドマンドに向けると、「彼女はどこに?」と、だけ尋ねた。

「彼女?」
 エドマンドはあたかも何も気付いていないかのような振りをして、首を傾げて見せる。
「とぼけるんじゃない、エドマンド・ランバート。彼女を、ミス・メリアはどうした?」
 ジョセフや侍女達は、主を呼び捨てにしたで・ルイス侯爵を目を丸くして振り返った。
 いくら主であるエドマンドよりも爵位が上とは言え、無断で屋敷へと上がり込み、名を呼び捨てにするなどメイグランド紳士の礼儀もあったものでは無い。

「・・・・・・なぜそんなにも慌てる必要が? デイ・ルイス侯爵」
 彼の質問に答えることなく、エドマンドは腕捲くりしていたシャツの袖を伸ばしながら、落ち着いた声で言った。
「聞いているのは私の方だ、ランバート。答えろ」
 皮靴の底をカツカツと鳴らし、早足でエドマンドへと近付いていくと、乱暴に彼の胸倉を引っ掴む。

「なっ、何を・・・! お止め下さい! デイ・ルイス侯爵様!!」
 慌てたジョセフが二人の間に割って入ろうとするが、それをデイ・ルイス侯爵は許さない。

 胸倉を掴まれたまま、エドマンドは尚冷静な表情でデイ・ルイス侯爵に視線を向けると、「彼女は実家へ戻しましたよ」と、静かに告げた。

「どういうことだ?」
 掴まれた胸倉をじっと見つめ、「まずはこの手を離してくれませんか?」と、デイ・ルイス侯爵に向けて冷ややかな笑みを浮かべた。

 デイ・ルイス侯爵が仕方無くその手を離すと、エドマンドは皺の寄ってしまったシャツを伸ばしながら言葉を続けた。

「あの舞踏会の晩貴方はそれどころでは無かったでしょうから、知る由も無いとは思いますが、メリア・ブラウンはあの会場で何者かに襲われたんですよ。貴方の招待した
あの屋敷でね」
「なに・・・・・・??」

 デイ・ルイス侯爵が明らかに険しい顔つきになる。