屋根の上で立ち止まったまま動く気配の無くなった闇の騎士(ダーク・ナイト)に、警官達が痺れを切らしてとうとう梯子を持ち出して壁を登り始めるところだった。
 彼的には、このややこしい状況を無視して回り道で安全に警官から逃れるルートを選択することもできた訳だが、しかし彼はそうはしなかった。

 やっとのことで屋根に上がり込んだ警官達は、とうとう闇の騎士(ダーク・ナイト)を追い詰めたとばかりに、薄笑いさえ浮かべてじりじりと彼の背後ににじり寄っていた。

(あの馬車に運び込む手筈か)
 彼は数十メートル先に、既にこうなることを計画して待たせてあるだろう馬車を見つける。
 
「何をぶつぶつ言っている。登ったはいいが、降りられなくなったのか、ダーク・ナイトめ!!」
 以前から闇の騎士(ダーク・ナイト)を追っている白髭を生やした男が、今にも彼の背に飛び掛ろうと姿勢を屈めた矢先のことだった。
 まるでそんな警官の存在を全く気にした素振りも見せずに、躊躇なく闇の騎士(ダーク・ナイト)は三階の屋根から真下へ飛び降りたのだ。

「なにっ!?」
 目を丸くして慌てて下を覗き込むが、そこには既になんの気配も無かった。まるでそこから闇の騎士(ダーク・ナイト)が忽然と姿を消したかのように。
「や、奴はどこへ消えた!?」
 警官は後ろについてきていた部下達に大声で訊ねる。
「わ、分かりません・・・。消えた・・・のでは・・・・・・??」
「そんな馬鹿なことがある訳なかろう!! 奴とてただの人間だ! この近くに絶対にいる筈だっ!! 敷地内をくまなく探せ!!」