闇の騎士(ダーク・ナイト)は、屋敷の窓を突き破って軽やかに闇の外へ飛び出した。身体に傷はついていない。古めかしいマントは見かけだけのものでは無く、こうした
場合に硝子の破片などから身を守ることもできる。
 彼の少し離れた後ろには、会場の客人として潜んでいた警官達が必死の形相で追ってきている。
 けれど、彼にとってそんなことは予想の範疇であった。
 とは言え、十数人相手には少々厳しい面もある。ここはなるべく距離を稼ぎ、どこかに身を隠してしまうのが利口のようだ。

 計画通りに、彼は腰ベルトに引っ掻けてあった鉤爪を抜き取り、ひょいと難なく屋敷の壁を這い登っていった。
 流石の警官達も、壁を彼の後をついて這い登ることができず、地上で彼の黒い影を地団太を踏んで見上げている。

「追え!! 屋敷を囲むんだ!! 反対側へ回り込め!! 奴を絶対に逃がすな!!」

 そういった警官達の声を聞きながら、闇の騎士(ダーク・ナイト)はまるで焦った様子もなく、寧ろ余裕たっぷりな様子で屋根から夜の景色を大きく見渡した。

(・・・・・・中庭を通って行くつもりだったが、警官の数がやたらと目立つな。反対側を通るほうが懸命か)
 そんなことをぼんやり考えながら、ふと真下を見下ろした。

 ―と、そこで何やら人の気配を感じ取る。

「まだここに警官か・・・・・・?」
 ちっと舌打ちして、仕方無く回り道を選択しようとしたとき、思いがけない光景が目に入ってきたのだ。

 ぐったりとして動かないどこぞの令嬢を、何やら怪しげな男達が二人がかりで抱き上げて運び出すところだった。
 暗くてはっきりとは見えないが、ダークトーンのドレスに、ピンクのレースがひらひらとひらめく。そして次に目に飛び込んできたのは、見覚えのある赤毛であった。

「あれは・・・・・・」