「お兄様!!」
 半ば悲鳴のような実妹の声で我に返り、デイ・ルイス侯爵は振り返った。
「キャサリン、無事か!」
 真っ青になって胸に飛び込んできた美しい妹は、震える声で小さくこう囁いた。

「闇の騎士(ダーク・ナイト)に、婚約指輪を奪われてしまったわ。一体どうすればいい?」

 妹の左手をとり、慌ててその薬指を確認する。
「まさか・・・・・・!」
 すっかり顔色を無くしたデイ・ルイス侯爵は、足元に落ちたままのカードを拾い上げた。



”偽りの仮面で偽かけの恋。
 実に洒落た舞踏会だ。
 偽かけの地位を手にした貴殿に相応しい。

 だが、偽かけの恋では深い愛は決して手に入れることはできないだろう。

 深愛。
 紅くそして深い愛情。
 信愛。
 互いを心から信じ、
 親愛。
 愛し親しみを持つ。
 
 真愛
 まことの愛。

 
 深愛のルビーを頂戴した。
 偽かけの愛はいずれ滅びる。
               闇の騎士(ダーク・ナイト)”




 信愛のルビーとは、即ちバウスフィールド家が代々妻から妻へと受け渡されてきた家宝であり、妹のキャサリンが婚約の証に受け取った何より大切な指輪である。それを奪
われたとなると、バウスフィールド家との婚約は解消されてしまうだろう。それどころか、大切な家宝をなくしたデイ・ルイス侯爵家への批判と反発の目はきっと免れない。
 真っ青な妹の肩を抱きながら、デイ・ルイス侯爵は目を細め、ただじっとそのカードに書かれた文面に視線を落としていた。