さっきのことがすっかり頭から消えさっていた矢先、再びランバート伯爵の前にメインディッシュを置いた瞬間のことだ。
「君は何か悪い薬でもやっているのか?」
 今度は明らかにメリアの震える手をしっかりと見据え、ランバート伯爵本人がそう言ったのを聞いた。
 いくら主人の客人で、高い身分の者だとしても、あまりに失礼な言葉。
 メリアはむっとして思わず彼を睨んだ。

「ここの侍女は怖いな・・・。客人に対する礼儀を知らないようだ」

 今度ははっきりと隣にいるモールディング伯爵にも、そしてクラーク男爵の耳にも届く声で彼はそう言った。

「う、うちの侍女が何か気に障るような事をしましたかな!?」
 慌てたクラーク男爵が、飲んでいたグラスを置いて目を丸くしている。
「いえ。作法が正しくなかったものですから、注意したところ彼女の気に障ったようです」
 メリアを見つめ、クラーク伯爵がわなわなと口を震わせた。
「も、申し訳ありません!! 別の侍女を呼びましょう」
 呼び鈴で、テレサがドアから入室して来る。
 メリアは呆然としてその様子を見つめていた。
「メリア! もういい、お前は下がっていなさい」
 クラーク伯爵の声で我に戻り、メリアは惨めな思いでなんとか頭を下げ、下がった。