急かされるままに慌てて屋敷へ舞い戻ったメリアは、まるで生きた心地がしなかった。
 よりにもよって、エドマンドが屋敷を留守にしているときに限って訪れた危機。
 もしも、アダム・クラーク男爵の屋敷での一件の嘘が知られたのだとすれば、自分が偽令嬢だという嘘も発覚してしまうという訳で・・・。そうなると、エドマンドやパトリックの信用に傷がついてしまうことに・・・。

 けれどそれは、結局のところ、取り越し苦労に終わった。

「テレサ!?」

 メリアの目に飛び込んできたのは、アダム・クラーク男爵の屋敷から連れ出して以来の友人の姿だった。

「メリア!・・・お嬢様」
 本当ならば、”メリア! 会いたかったわ!!”と、いつものごとく駆け寄りたい思いでいっぱいだったが、テレサは冷静に思い返し、その行動を控えた。
 なぜなら、彼女はメリアの置かれたこの難しい状況を知る唯一の人物だったからだ。
 それというのは、メリアがあの日、自らテレサに事の成り行きを打ち明けたことに始まる。

 そんなこんなで、すっかり令嬢になりすましているメリアの為にテレサが演じてくれたのだ。
「どうしてテレサが??」
 部屋の隅に、ジョセフが控えていることも忘れ、メリアはテレサに抱きついた。

「まあ、メリアったら。ダメよ、令嬢が使用人に飛びつくなんて」
 耳元で、そっとテレサが嗜める。
 あっと声を出し、慌ててメリアがテレサから飛び退いた。

「ご、ごめん、つい・・・」
 相変わらずなメリアにテレサがくすっと笑いを溢した。
 そして、咳払いをすると、わざとジョセフにもよく聞こえる声でテレサは話し始めた。
「お嬢様がお元気そうで何よりですわ。今日は、ご実家から文をお持ちしましたの」
 そう言って、テレサはバッグから手紙を取り出し、大切そうにメリアに手渡した。

 メリア宛の手紙だ。